『怒濤のごとく』 白石一郎 文藝春秋 1998年
※一部ネタバレ注意
国姓爺・鄭成功の誕生から死亡までを書いた物語。当作品は毎日新聞の日曜版に1996年10月から98年9月にかけて連載されていたものである。
「鄭成功が日中混血児であったことは確かだが、日本との関係はむしろ父親の鄭芝龍のほうが深く広い。従ってこの小説では前半の鄭芝龍の活躍に力をこめたつもりである。」と文庫版のあとがきにて著者が述べている通り、鄭芝龍の描写が目立つ作品になっている。特に明の官爵を得て以降は徹底的なリアリスト・野心家へと変貌を遂げ、かつての仲間から「怪物」と評される軍閥の長となっていく様子は圧巻である。
鄭成功を主役にした小説での個人的な見所として、「清に降伏しようとする芝龍と、抵抗意見の成功の対立」があるのだが、この作品においては終始芝龍が成功を圧倒している様な印象を受けた。お互いの主張をぶつけあった後に芝龍が周りに向けて放った「あやつは幼い時から学問ばかりして論争には長けているが、融通がきかぬ。まっすぐに物を考えて人間の機微を知らん。お前達はあやつの理屈に感心ばかりせず、あやつに欠けたところを指摘してやってくれ。このことは頼んでおくぞ」という台詞からは、親としての情と同時に、成功との人生経験の差を感じ取ることができる。
そんな鄭芝龍であるが、清に降った後は全く物語に登場しなくなる。おそらく主役の成功を引き立たせる為かと思われるが、一切の心理描写すら無く、終盤で処刑された事が伝えられるのみである。個人的にはアンチ芝龍なのだが、この作品の芝龍は凝った設定がなされていた為、その晩年の描写も見てみたかった気もする。
反面、主役の鄭成功はと言えば、作中で幾度も「日本人的気質」と評されている。一本気で忠義にあつい反面、短気で癇癪持ちであり、この性格は、彼の活躍を書いた物語作品の中では常例になっている。個人的にはもっと激情家として書かれていた方が好みなのだが、主人公の性格は作品全体に多大な影響を及ぼす為、加減の難しい所だろう。
歴史小説として見た場合、全体的に読みやすく、難しい固有名詞も少なめである。登場人物の描写は淡白気味であり、好みの分かれる所かもしれないが、フィクションの少ない物語が好きな人には受け入れられやすいかもしれない。芝龍ファンには特にオススメできる。
※あくまでも個人的な感想です
オススメ度:★★★★